花祭りと豊作予祝とアマチャ

【花祭りと豊作予祝とアマチャ】

今年は例年より少し早めに開花して散ってしまった感のある桜ではありますが、4月には全国各地で桜の花にちなんだ祭りがあります。神前に桜花を供え、歌、あるいは狂言を楽しんだり、神輿に桜の枝を積んだりといったもの。

 

また花が散る頃には、疫病の神が花びらに付いて飛び散るのを鎮める、鎮花祭(はなしずめのまつり)もあるのだとか。そして4月8日はお釈迦さまの誕生を祝う花祭り-潅仏会(かんぶつえ)があります。

潅仏会は古くからインドでも盛んに行なわれていましたが、日本での起源は平安時代初期で、のちに宮中の行事にもなりますが、花祭りと呼ぶようになったのは明治に入ってからです。

 

花祭りでは、花御堂(屋根を花で飾った小堂)の中の水盤をアマチャ(甘茶)で満たし、その中心に仏像を安置し、柄杓でアマチャをすくい頭上から注ぎます。花御堂はお釈迦さまが産まれたルンビニの花園を表し、アマチャを注ぐのは、誕生を祝う梵天と帝釈天が、甘露を雨のように降らせて産湯としてつかわせた伝説や、天の龍が香湯をそそいだという故事によります。

 

ところで、もう消失してしまいましたが、かつて日本では、4月8日に山に登り、山の神をまつり、花見をする風習がありました。秋の収穫の後に山に帰った神を再び田に迎えるため、この日を山の神の来臨の日とするしきたりがあったのです。

そして、山でウツギの花や枝、そのほかにもフジ、ツツジ、シャクナゲ、ヤマブキなどの花を摘み、それらを家の軒先に挿したり、高い竿の先に結んで屋外にたて神に献上しました。

 

このように仏教が伝わる前から花を飾ってまつる風習が日本にはありましたが、仏教の広がりとともに仏教儀式に吸収されていき、4月8日の潅仏会が花祭りと呼ばれるようになったと考えられます。

 

いずれにしても、花を献じて豊作を願うという古来からの祈りのようなものが花祭りの根底には流れているともいえますね。それは桜の花で豊作を予祝した花見にも通じる、日本の花文化ともいってもいいのではと思います。

 

話は戻りますが、花祭りの際に使う『アマチャ』は、日本の中部山地に自生するユキノシタ科の落葉性の低木で、葉を生薬として用いますが、現在は主に長野県で栽培されています。また、アマチャは日本特有の薬であるため、中国の生薬名はありません。(ちなみに、名前の似ている「アマチャヅル」はウリ科の植物で、アマチャとは全く異なる植物です。)

アマチャは、発酵させることで甘くなります。夏に葉を採取し、水洗いした後、約2日間日干しにします。

これに水を噴霧し、むしろをかぶせて1日発酵させた後、手で葉をよく揉んで、さらに乾燥させて仕上げます。

このようにして調製すると、葉は独特の甘味を生じ、縮んでしわが多数あるアマチャができます。

そして、アマチャの産地である長野県の佐久では、お祭りの際に人々にアマチャが舞われる風習や、お神酒として甘茶を使う風習が見受けられます。

 

アマチャには防虫効果もあると言われていて、墨にアマチャを混ぜてすり、白い紙に虫よけのおまじないを書いて戸口に貼ったり、室内の柱に逆さに貼るといったユニークな虫よけの風習が近年まで全国各地に残っていたようです。

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